中小トラック運送業の3PL化戦略

 

中小トラック運送業における3PL(サードパーティ・ロジスティクス)化について

 


要旨

 中小トラック運送業の3PL(サードパーティ・ロジスティクス)化について検討します。3PL化を進めることによって「提案型物流専門企業」への転換を図り、収益源の多様化と安定収益・安定経営を目指します。

 

1.中小トラック運送業界

厳しい競争環境

 

 トラック運送業界は伝統的産業であり、同業者が多数存在し厳しい競争環境にさらされている。

 

 業界はここ10年間毎年約1000社が新規参入し、一方で毎年約1000社が廃業に追い込まれるという過酷な状況となっている。

 

 こうした状況において、ただ荷物を運ぶだけではライバルとの競争状態に陥り、価格競争に巻き込まれるだけである。

 

 価格競争はじりじりと企業体力を消耗させてゆく。

 

 働いても働いても実入りが増えないということになり、ドライバーや作業員の確保も難しくなってくる。

 

 既存荷主に対しても強くPRできるものがなければ、「かわりはほかにもある」ということになり、年々の要求や風当たりが厳しくなってくる。

 

 運賃交渉や業務受注の点で、なかなか従属的立場から抜け出すことができない。

 

 こんな苦しい状況から抜け出すために何をすべきか。


提案型企業へ

 

 こうした状況から抜け出すためには、まず運賃下請けの状況から脱却しなくてはならない。

 

 すなわち配送業務にとらわれるのではなく、「提案型物流専門企業」への転換を図り、

 

 運賃以外のサービス収益を幅広く収受していくことで収益源の多様化を進めて行くのである。

 

 

 「提案型物流専門企業」を目指すことから得られる利点は次の通り。

 

1.自社の専門性が明確になる   

 自社の得意分野を明確にすることで、専門性の高い物流改善・効率化提案を行うことができる。

 

2.営業ターゲットが明確になる

 自社の専門サービスの享受をニーズに持つ荷主を探し、的を絞った営業活動を展開することができる。

 

3.収益源が多様化する  

 運送だけでなく、業務受託やコンサルティング受注を通じて運賃下請けから脱却することができる。

 

 

 このような3つの利点を享受することで、市場において自社の存在価値を高め、

 

 収益源の多様化を図り、安定成長・安定経営を実現していくのである。

 

 では、「提案型物流専門企業」になるためには、どうしたらよいか。

 

 その方法の一つとして、中小トラック運送業の3PL化戦略について考えてみたい。

 

2.3PLとは何か

3PLの定義

 

 3PLとは、物流事業者が提供する物流サービスの一つであり、

 

 「荷主に対して物流改革を提案し、包括して物流業務を受託する業務」のことをいう(物流大綱)。


 ここでいう物流改革の提案というのは、荷主企業の物流レベルを向上させるために物流の効率化やコストの管理についての提案を行うことを意味する。

 

 また、包括して物流業務を受託するというのは、個々の物流業務を受託することのほか、企業全体またはサプライチェーン全体における物流システム全体の業務・運営・管理を受託することが含まれる。

 

 以上を要約すると、3PLの特徴は次の3点である。

 

【3PLの特徴】

 

個々の物流業務を受託する

②物流システム全体の業務・運営・管理を受託する

物流の効率化やコストの管理についての提案を行う

 

3PLの時代背景

 

 3PLを理解するうえで、まず3PLが主張されるようになった時代背景を考えてみよう。

 

 トラック運送業界においては1990年代以降、市場や顧客ニーズの多様化を背景とした「多頻度小口配送」に加え、

 

 2000年前後におけるネット環境の進展からの「短納期」の要請が急速に高まってきた事情がある。

 

 このような多頻度・短納期・小口配送の要請は、物流業務の多様化・複雑化を進展させ、

 

 企業の物流コストが増大するとともに、物流の効率化やコストの管理に高度の専門性が要求されるようになった。


 その結果、企業が自前で物流業務を管理するのはコスト負担や問題解決能力等の点で負担が大きすぎると考えられ、

 

 物流業務とその管理は物流の専門家である物流事業者に任せるのがよいという考え方が高まってきた。


  こうした背景から、物流企業が荷主企業の物流業務を包括的に受注しその業務の効率化や物流コストの管理について荷主企業に対して提案を行っていくという物流サービス、すなわち3PLが支持されるようになった。

 

 このような背景から考えると、荷主が3PL企業に期待する効果を次のように整理できる。

 

【荷主が3PL企業に期待する効果】

 

1.物流の効率化

2.物流コストの管理

3.物流業務の委託

 

 すなわち3PL企業にはこうした業務の受託や提案を行うことが求められるのである。

 


3PL化に活路を見い出す

 

 「提案型物流専門企業」への転換を実現していくためには中小トラック運送業の3PL化を進めることが効果的である。

 

 3PL化を実現することで、既存荷主との関係を深め、取引の追加受注を実現して収益拡大を目指す。

 

 3PL化を新規参入や新事業開発の事業テーマとして取り組むことで、新たな荷主、新たな収益源を獲得する。

 

 3PL化を手掛かりに、コンサルティング業務や付随業務の受注を実現し、運賃だけでなく、その他の専門サービス提供からも収益を獲得する。

 


 提案力や業務遂行力を柱にした3PL化は、中小トラック運送業にとって収益源の多様化を進め、価格競争から解放されるための活路の一つとなる。

 

3.中小トラック運送業と3PL

中小トラック運送業の3PL化戦略

 

 中小トラック運送会社の場合、例えば荷主企業から配送業務のみを受託するというように、上記のうち「①個々の物流業務を受託する」のみを行っているケースが一般的である。

 

 そこで「①個々の物流業務を受託する」を出発点にして3PL化を実現するならば、①から「②物流システム全体の業務・運営・管理を受託する」または「③物流の効率化やコストの管理についての提案を行う」へ業務範囲を拡大していくことになる。すなわち②を行っている企業が3PL化を実現するためには、次の二つのプロセスをたどることが考えられる。

 

1.①を出発点として、①→②→③(量的展開)のプロセスをたどる

2.①を出発点として、①→③→②(質的展開)のプロセスをたどる

 

量的展開の3PL化

 

 ①→②→③(量的展開)の場合は、物流業務の受注拡大を手掛かりにコンサルティング業務を付加していき、将来的に3PL化を目指すパターンである。

 

 例えば配送業務のみを受託している企業ならば、それに加えて物流センター内の作業・運営・管理を受託することが考えられる。

 

 また、物流センターの業務を受託している企業ならば、商品在庫数のチェックだけでなく、受発注業務及び在庫責任についても受託することが考えられる。

 

 さらに一拠点の在庫・入出庫・配送管理だけでなく、物流拠点や配送ネットワークの管理(協力業者の管理を含む)など、荷主企業の物流における全社的管理についての構築・運用・管理についての業務を受託することが考えられる。


 このように追加的に受注する業務の範囲を拡大させることによって荷主企業の物流業務に深く入り込み、

 

 荷主企業の事情や課題を熟知し、情報を獲得するとともに徐々に運営ノウハウを築いていく。

 

 こうした②のノウハウを基礎として、改善提案・コンサルティング業務を行っていくなど、「③物流の効率化やコストの管理の提案」業務を付加していくのである。

 

質的展開の3PL化

 

 ①→③→②(質的展開)の場合は、既存取引や新規にコンサルティング業務を提供していく中で物流業務の受注拡大を進め、将来的に3PL化を目指すパターンである。

 

 長く取引を行っている荷主の事業については、ある程度の事業知識を持っているはずである。それをもとに、物流専門家の立場から、荷主にとっての物流の効率化やコスト改善の方策を考えてみればよい。

 

 ほとんどの運送会社は、知恵の材料を豊富にもっている。考えるきっかけさえあれば、提案の知恵はどんどんわいてくるはずである。カギは荷主の立場に立って考えてみることである。もし自分が荷主なら、運送会社に何をしてほしいか。

 

 多くの場合、荷主は事業展開に合わせて物流の動線が伸び、そのたびに配送や拠点を事後的・場当たり的に追加していく。そのため事業を拡張すればするほど物流コストが上乗せされていき、次第に利益が出なくなってくる。

 

 事業を拡張するほど利益が出なくなるというのはとても苦しい。この点を改善していくための提案を用意してゆく。事後的・場当たり的対応から、事前的・予防的な対応への転換を促していくことがカギとなる。

 

 前提として、荷主の事業特性や事業展開、営業地域、商品特性、顧客特性等を理解していくことが重要になる。情報収集や意思疎通のためにも、荷主との日頃のコミュニケーションや提案機会・報告の場づくりを大切にしたい。 

 

 このようにしてアイデアを出せるだけ出して、知恵の体系化を行い、コンサルティングの企画を作り、荷主に対して提案していく。

 

 こうした③の業務を手掛かりとして、荷主との信頼関係を構築したうえで「②物流システム全体の業務・運営・管理」の受注獲得を目指すのである。

 

※アセット型3PLとノンアセット型3PL

 経営資源や能力は必ずしも自社資源として保有する必要はなく、包括受注したうえで外部資源を活用して3PLサービスを提供する場合もある。とくにコンサルティング業務を中心に提供していく場合には、必ずしも自社でトラックや拠点を持たず、そうした資源をすべて外注・委託で賄い、自社は物流全体の管理運営及び荷主に対する報告・コンサルティング業務を担うという3PL業態もみられる(ノンアセット型)。これに対して、トラックや拠点等の資源を持つことを強みとして、独自の専門領域の業務受託を中心に発展させていく3PL業態もみられる(アセット型)。

 アセット型の場合はトラックや物流センターなどの現物資産を持つため、限定された荷主に対し長期的・継続的な3PLサービスを展開していくことができる。ゆえに3PL化については長期的・計画的視点で取り組むことで、特定業種・特定企業向けのノウハウを蓄積することができる。上記の量的拡大・質的拡大の分類でいえば、量的拡大と相性がよい。

 これに対して、ノンアセット型の場合には現物資産を持たないゆえ、広範囲・多数の企業に対してコンサルティング業務を手掛けることができる。物流専門の知識・経験を中核にして、様々な業種・企業の物流改革ノウハウを蓄積していくことができる。そうして複数企業に対しコンサル業務を進める中で、いくつかの企業から物流作業・物流管理業務等を受託し、受託した業務を外注(再委託)するとともに、自社は運営管理を担うという業態になっていく。上記の量的拡大・質的拡大の分類でいえば、質的拡大と相性がよい。

  アセット型・ノンアセット型のどちらが有利かについて断定することには意味がない。自社の現在の保有資産や経営ノウハウ等を勘案して、どちらの方向性を目指したらよいのかを判断する際の基準として活用すればよい。

 

いずれのプロセスを取るべきか?

 

 3PL化を実現するためには、量的展開の3PL化と質的展開の3PL化の二つの道筋がある。

 

 いずれのプロセスを取るかについては、自社の経営資源と照らし合わせて検討すべきである。

 

 自社の経営資源と荷主特性を分析し、最短で3PL化を実現できるプロセスを模索する。

 

 検討するための視点としては、例えば次の点が考えられる。

 

・自社の保有資源レベル(ノウハウ、設備、車両、人材)を考える
 ・資源保有の限界を考える(資金調達、固定費負担、人材確保)
 ・自社の強みを活かす、サービス内容を絞り込む
 ・既存事業との相乗効果を考える
 ・既存荷主のニーズを考える
 ・自社の長期戦略、事業計画を考える
 ・自社の歴史との整合性を考える

 

 たとえば、現場作業の遂行面で設備やノウハウを蓄積してきた企業であれば、①→②→③(量的展開)を取る方が容易だと考えられる。

 

 これに対して、歴史的に協力業者を多く保有し、運行管理や物流業者のコーディネイトで実績やノウハウを蓄積してきた企業のような場合には、①→③→②(質的展開)を取る方が容易だと考えられる。

 

 ただしどちらかが定形的に当てはまると考えるのではなく、荷主企業の事業展開や物流ニーズを踏まえて複合的に・総合的に検討すべきである

 

 

☆☆☆ワークシートを使って自社・顧客を分析することができます☆☆☆

 

 自社の経営資源の分析に用いることにより、3PL化への最短ルートが見えてきます。一方で、荷主の経営資源の分析に用いることで、荷主企業の経営資源の不足ポイントや物流ニーズが見えてきます。

 

4.まとめ

3PL化を実現するために -成功のポイント-

 

 自社の経営資源・能力を超えた業務を無理に受注すると利益が出せず、かえって信頼を失って事業自体が継続できなくなるおそれがあります。

 まずは自社の現状を冷静に分析することが肝要です。いきなり企業全体が3PL化を目指すのではなく、自社の得意とする業種・業態・企業群を絞り込んで3PL化を検討するべきです。そしてトライ&エラーを繰り返し、地道にノウハウを構築していく姿勢を持つことが大切です。


 こうした取り組みを効果的かつ確実に行うためには、3PL化を目指す時点においてある程度の経験やノウハウを持っていることがアドバンテージになります。そうした意味から考えると、取引関係の長い既存荷主を1社選び、同社に対する業務について段階的に業務拡大ないしコンサル業務の受注を目指していくことが3PL化の早道だといえます。

 また、3PL化を目指す企業は、根本的な意識の改革が必要にもなります。荷主と対等の関係を築いてゆく、すなわち戦略的意思のもとに荷主企業とのパートナーシップ関係を築いていくという、気概や志が求められるのです。

 


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